
取引先へのメールや電話で、「後ほど、お伺いさせていただきます」と無意識に使っていませんか。
「伺う」は、「訪ねる(訪問する)」や「尋ねる(質問する)」の謙譲語でありビジネスシーンでは頻繁に使われる言葉です。 しかし、丁寧に伝えようとするあまり、実は「二重敬語」という誤った使い方をしてしまっているケースが後を絶ちません。
親しい間柄であれば許容されることもありますが、重要な商談やプレゼン、目上の方へのメールで誤用してしまうと、「マナーを知らない人だ」と評価を下げてしまうリスクがあります。そこで本記事では、メール配信システムのプロであるブラストメールが、自信を持って使える「正しい敬語」について解説します。
- なぜ「お伺いさせていただきます」がNGなのか?
- そのまま使える! シーン別「正しい言い換え例文」
- 迷いやすい「伺う」と「参る」の使い分け
この記事を読めば、もう過剰な敬語に迷うことはありません。相手に好印象を与えるスマートな日本語表現を身につけましょう。
目次
「お伺いさせていただきます」は二重敬語
「お伺いさせていただきます」は「二重敬語」と呼ばれる誤用です。二重敬語とは、一つのフレーズの中に「謙譲語」もしくは「敬語」が重複する誤用です。
二重敬語の中には、誤用ではあるものの習慣的に使われているために、誤用とは認識されていないものが多く「お伺いさせていただきます」もその一つです。「お伺いさせていただく」の場合は、訪れる(もしくは「聞く」)の謙譲語である「伺う」と「する」の謙譲語である「させていだだく」が重複しています。
同じパターンの二重敬語には、以下のようなものがあります。
- お見えになられました
- 頂戴させていただきます
- 拝見させていただきます
一見すると、相手を敬った丁寧な表現のような印象を受けるかもしれませんが、これらは全て謙譲語が重複した二重敬語です。
「〜させていただく」という言葉は特に二重敬語での誤用が多い言葉なので、普段使っている表現でも見直してみると間違いに気がつくかもしれません。
「お伺いさせていただきます」のような二重敬語は失礼?
「お伺いさせていただきます」をはじめとする二重敬語の使用が相手に不快感を与えるのか、というと必ずしもそうではありません。多くの方は日本語の品詞を気にして会話をしているわけではないので、二重敬語に対して過剰に反応する必要はないでしょう。
しかし、二重敬語を使うことで考えられるデメリットがあるのも事実です。「お伺いさせていただく」をはじめとする、二重敬語のデメリットを考えてみましょう。
冗長的な表現になる
詳しくは後述していますが「お伺いさせていただく」の正しい表現は「伺います」です。
- 明日の14時にお伺いさせていただきます。
- 明日の14時に伺います。
上記の文章を見比べてみると、正しい表現である「伺います」を使った方が、文章がスッキリしているのがわかるかと思います。日本語の多くは、謙譲語や敬語に活用することで文字数が増えたり表記が難しくなるという特徴があります。
例文は短いフレーズなのでそこまで気にならないかもしれませんが、自身がビジネスメールで以下のようなメールを受け取った場合はどう感じるでしょう。
件名
件名が入ります
本文
株式会社〇〇 営業部 高橋様
平素より誠にお世話になっております。
株式会社△△の佐藤です。
先日、お話しさせていただきました〇〇に関する打ち合わせを開催させていただきたく存じます。
お忙しい中お手数をおかけいたしますが、以下の日程からご都合のよろしい時間をお選びいただき、ご返信くださいますようお願いいたします。
①、〇〇月〇〇日〇〇時~
②、△△月△△日△△時~
③、▢▢月▢▢日▢▢時~
もし、候補に挙げた日程での開催が難しいようでしたら、別途ご相談させていただければ幸いです。
(署名)
上記の例は「〇〇のミーティングを開催するので、都合が良い日程を選び返信をしてください」という意味が伝われば良いメールです。
しかし、上記のメールでは二重敬語が多用されているため、要点が把握しづらくまわりくどい印象を抱いたのではないでしょうか。
謙譲語や敬語を使いつつ二重敬語の表現を避けると、以下のようなメールになります。
件名
件名が入ります
本文
株式会社〇〇 営業部 高橋様
平素より誠にお世話になっております。
株式会社--の佐藤です。
先日、お伝えした〇〇に関する打ち合わせを開催する候補日を記載しました。
ご多忙のところ恐縮ですが、以下の候補日からご都合が合う日程をお選びいただき、ご返信くださいますと幸いです。
①、〇〇月〇〇日〇〇時~
②、△△月△△日△△時~
③、▢▢月▢▢日▢▢時~
もし、候補に挙げた日程での開催が難しいようでしたら、改めて候補日をお伝えします。
ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
(署名)
こちらの例の方が内容と文字数のバランスも良く、読んでいてストレスや違和感を感じにくいのではないでしょうか。
相手を敬う気持ちを表現することは大事なことですが、過剰な敬意表現は使わずに簡潔に内容を伝えるようにしましょう。
卑屈な印象を与える可能性がある
謙譲語や敬語は、相手を敬い丁寧に接そうとする気持ちを表現する言葉です。しかし、あまりに丁寧さを重視した文章や言葉遣いは、逆に相手を恐縮させてしまうこともあります。
また、謙譲語は自分の位置を下げることで相手への敬意を示す言葉なので、多用することで卑屈な印象を与える場合もあります。ビジネス・プライベートを問わず、相手に丁寧表現を使うのには「コミュニケーションを円滑にする」という目的があります。
二重敬語のようなあまりにへり下った表現は、相手に卑屈な印象を与えてしまい、かえって嫌味に聞こえてしまうことがあることを覚えておきましょう。
「お伺いさせていただきます」の正しい表現
「お伺いさせていただきます」の正しい表現は「伺います」です。ここからは「お伺いさせていただく」を「伺う」に直した例文を、シーン別に解説していきます。
「行く」ことを表現する場合
- 明日の14時に〇〇に伺います。
- 当日は天候が悪くとも、必ず伺います。
「お伺いさせていただきます」に慣れてしまうと、やや礼儀を書いた表現のように聞こえるかもしれませんが、日本語の用法的にはこれが正しい使い方です。
「行った」ことを表現する場合
- 〇〇には、前日伺いました。
- 〇〇に伺ったところ、不在だったため帰社しました。
「伺う」を過去形にすると「伺った」になります。
「お伺い致しました」は「お伺いさせていただきます」と同様に、二重敬語に分類されます。
例文のように「〜に伺ったところ」とすると、その後の文章にもつなげやすくなります。
「行けない」ことを表現する場合
- その時間帯はお伺いできません。
- ご提案いただいた日は、出張が入っており伺うことが難しい状況です。
「その時間帯はお伺いできません」も日本語的には正しい文章ですが、淡白な印象を受けてしまうかもしれません。上記のようなケースでは、2つ目の例文のように「伺う」前後の文章で二重敬語にならないように丁寧表現をしましょう。
例文では、伺うことができない理由を説明した上で「伺うことが難しい状況です」という言葉を使い、言葉の印象を柔らかくしています。
「行く」ことに関する許可を得たい場合
- 明日の14時に伺ってもよろしいでしょうか。
- 差し支えなければ、明日の14時に伺いたく存じます。
「伺いたく存じます」は、二重敬語のように見えるかもしれません。
しかし、「存じます」は「思う」の謙譲語になるため「伺う」とは別の単語としてカウントされ、二重敬語には該当しません。
こちらも、2つ目の例文の方が丁寧な表現になっているので、相手との関係性を考慮して使い分けましょう。
「聞く(聞いた)」ということを表現する場合
- 担当者より、状況を伺いました。
- 〇〇さんのお話を伺ってから判断してもよろしいでしょうか。
「聞く」という意味で「伺う」を使った例文です。
ここまで解説してきた「伺う」とは意味が違いますが、文法的な使い方は同じなので「お〜させていただきます」と合わせて使わないように注意をしましょう。
「お伺いさせていただきます」の言い換え表現
「お伺いさせていただきます」を「伺う」に直した例文をご紹介しましたが、相手に与える印象に不安がある方は、別の言葉を使い文章を作ることも検討しましょう。
「行く」を「伺う」以外の言葉に言い換える
- 明日の14時頃に参ります。
- 〇〇様はすでに出られましたでしょうか。
「行く」の謙譲語として「伺う」と同様に使うことができるのが「参る」です。
謙譲語なので、自分自身が行く時にしか使えません。
そのため、相手が自社を訪ねてくる時などに「何時頃に参られますか?」という表現をしないように注意しましょう。
相手がこちらに「来る」ことを表現するときは、例文にある「出られた」の他に、以下のような表現を使います。
- お見えになる
- お越しになる
- いらっしゃる
「聞く」を「伺う」以外の言葉に言い換える
- 〇〇についての意見を拝聴しました
- 詳しい担当者にお繋ぎしますので、そちらで再度お尋ねください。
自分自身が主語になる場合は「拝聴(はいちょう)」が使われます。日常生活ではあまり使うことがない言葉ですが、謙譲語の一つである「拝見」と同じような使い方をイメージしましょう。
ただし「拝見」も慣例的に二重敬語で使われることが多い言葉と言われており、注意が必要です。以下の記事では「拝見」の正しい使い方と例文について解説しています。
関連記事:「拝見させていただく」って使ってない?正しい「拝見」の使い方を解説します
ビジネスではよく使われる言葉なので、こちらもぜひ覚えておきましょう。
「伺う」に関するよくあるNG敬語
「お伺いさせていただきます」以外にも、「伺う」に関連する敬語表現には、間違いやすい落とし穴がいくつか存在します。ここでは、多くの人が迷いやすい疑問についてQ&A形式で解説します。
「お伺いいたします」は許容範囲?
結論から言うと、「お伺いいたします」は文法的には「お」+謙譲語「伺う」+謙譲語「いたします」となり、二重敬語に分類されます。しかし、ビジネスシーンにおいては「許容範囲」として広く一般的に使われています。
厳密な文法ルールよりも、慣習としての「耳馴染みの良さ」や「丁寧な響き」が優先されるケースが多いためです。多くの企業で、日常的なメールや会話の定型句として使用しても、大きな問題にはなりません。ただし、相手が言葉遣いに厳しい方であったり、式典などの格式高い場であったりする場合は、念のため正しい文法である以下の表現に言い換えるのが無難です。
- 伺います
- 伺いたく存じます
「お伺いしてください」は尊敬語として間違い
これは明確な間違いであり、相手に対して大変失礼にあたる表現です。
「伺う」はあくまで「自分(または身内)が行く・聞く」という動作をへりくだって言う謙譲語です。そのため、相手の動作に対して「伺う」を使ってしまうと、相手をへりくだらせてしまう(相手を下に見ている)ことになります。相手に来てほしい、あるいは聞いてほしい場合には、必ず「尊敬語」を使用しましょう。
- NG: (弊社に)お伺いしてください
- OK: (弊社に)お越しください / いらしてください
- NG: (詳細を)お伺いしてください
- OK: (詳細を)お聞きください / お尋ねください
FAQ
- Q:「お伺いさせていただきます」という表現は正しい敬語ですか?
- A:いいえ、文法的には**「二重敬語」と呼ばれる誤用にあたります**。「伺う」という言葉自体が既に謙譲語であるため、さらに「お」や「させていただきます」を重ねる必要はありません。
- Q:正しい表現方法はどうなりますか?
- A:シンプルに**「伺います」とするのが正しい表現です**。例えば、「明日の14時にお伺いさせていただきます」ではなく、「明日の14時に伺います」と伝えます。
- Q:二重敬語を使ってしまうと、どのようなデメリットがありますか?
- A:文章が回りくどくなり、読み手に**冗長的な印象やストレスを与える可能性があります**。また、過度にへりくだることで卑屈な印象を持たれ、かえって慇懃無礼(丁寧すぎて嫌味)に聞こえてしまうこともあります。
- Q:「伺う」以外の言葉で言い換えることはできますか?
- A:はい、可能です。「行く・訪問する」という意味であれば**「参ります」**、「聞く」という意味であれば**「拝聴します」**や「お聞きします」などの言葉に言い換えることができます。
まとめ
「行く」「聞く」の謙譲語である「伺う」は、ビジネスでもプライベートでも使われている言葉です。頻繁に使われている一方で「お伺いさせていただきます」といった二重敬語での使用には、注意しなければなりません。
「お伺いさせていただきます」のような慣例的に使われている二重敬語は、相手の気分を害すことはないものの、冗長的な文章の原因となります。また、過度にへりくだった表現は、逆に嫌味な言い方に受け取られてしまうこともあるかもしれません。
ビジネスでのコミュニケーションでは、正しい日本語を理解した上で相手との距離感や関係性を踏まえた言葉選びをする必要があります。ビジネスではプライベートの会話やメールでは使い慣れない表現が求められるため、文章の作成に自信が持てない方もいらっしゃるかもしれません。
以下のURLでは、コピペして使うことができる「ビジネスメール例文集」を無料でダウンロードすることができます。
プライベート・ビジネスを問わず正しい日本語を使い、相手と円滑なコミュニケーションが取れるように心がけましょう。


