「エスカレーション」というビジネス用語をご存知でしょうか。
広義では、自分より上の役職の方に業務に関する相談をすることを指しますが、厳密には業界ごとに違ったニュアンスを持っています。
エスカレーションが必要になるのは、緊急事態に発展する可能性があるインシデントの時や、クレーム対応などです。
そのため、エスカレーションに対する社内の認識やオペレーションを共有しておく必要があります。
この記事では、業界ごとの「エスカレーション」の認識や、オペレーションを作成する際のポイントについて解説しています。
自身では判断が難しい場面は、ビジネスをしていると必ず訪れるものです。そのような時でも、最善の選択ができるように準備をしておきましょう。
目次
エスカレーションとは
冒頭で解説したように、エスカレーションとは「緊急事態やインシデントが発生した際に、自分より役職が上の方に判断を委ねる」ことを意味しています。
ここで注意が必要なのは「事後報告」と区別をしなければならない点です。
エスカレーションとは緊急に対応や判断が必要なケースであり、すでに行動をした後の事後報告とは根本的な違いがあります。
また、エスカレーションには段階的な上位伝達というニュアンスも含まれています。
例えば、自分がエスカレーションをしたリーダーから、さらに上の課長へ、それでも判断に困る様であれば課長から部長へ……と、判断ができる役職まで事案を共有します。
自分が責任を負えないような物事でミスをしてしまうと、自身だけなく会社全体の損益に繋がってしまう可能性もあります。
そのため、エスカレーションを責任転嫁のように感じてしまうのは間違いで、自身が責任を負えない範囲の物事やインシデントは上長の判断を仰ぐようにしましょう。
エスカレーションのニュアンスが違う業種もある
エスカレーションは広義では同じ意味を持っていますが、微妙にニュアンスが異なっている業種もあります。
ここからは、冒頭で解説した意味以外にエスカレーションという言葉を使う業種をご紹介します。
コールセンター
コールセンターでエスカレーションというと以下のような意味を持っています。
- 質問された分野についてより詳しい人に対応を交代する
- 顧客が感情的になっているため担当者を交代する
もちろん、上長に交代するという場合でも使われますが、上記のようなエスカレーションでは、立場が上の方に交代するとは限りません。
お客様との窓口であるコールセンターには、日々多くの問い合わせやクレームが寄せられるため、エスカレーションを行う頻度も増えるでしょう。
自身や会社を守るという意味合いに加えて、お客様を待たせないためにより詳しい人に交代するというニュアンスも含んでいます。
システムオペレーター
システムやネットワークの運営・管理を行うシステムオペレーターは、委託を受けているシステムの異常を顧客に相談するという意味でエスカレーションという言葉を使います。
こちらも社内の上司への相談という意味でも使われますが、顧客に相談・報告を行うのは特徴的なエスカレーションと言えるでしょう。
サービス・小売
サービス・小売業のエスカレーションは、クレーム処理を上司に任せるという意味で使われることが多いです。
クレームを寄せるお客様の中には「責任者を出せ」と、感情的になっているケースもあるので、エスカレーションをすることで相手を冷静にさせる狙いもあります。
寄せられるクレームの中には、上司に判断を求める必要がないこともありますが、責任者からの謝罪で溜飲が下がる可能性もあります。
そのため、サービス業では自身で判断ができるかという基準だけでなく、顧客トラブルを穏便に解決する意味でもエスカレーションが有効です。
エスカレーションをする際は社内ルールを作成しておく
先述のように、業種によっては特殊な意味を持っているエスカレーションですが、企業がエスカレーションを行う場合はルールを設定しなければなりません。
ルールがないと、エスカレーションをすべき案件でも報告がなく大きな損失につながってしまった、といった事態を招きかねません。
また、担当者で判断しなければならない案件なのに、無闇にエスカレーションをしてしまうのも考えものです。
ここからは、エスカレーションを社内に取り入れる際に、社内で徹底すべきルールについて解説します。
エスカレーションのレベルを設定する
クレームやインシデントのレベルに応じて担当者を決めておかなければ、対応が遅れるだけでなく、上長の過度な業務圧迫にも繋がりかねません。
そのような事態を避けるためにも「このケースでは〇〇レベルの社員が判断する」といった、基準を設けておきましょう。
一般企業を例に、エスカレーションのレベルを設定してみます。
- ① 過去に解決事例のある問題・・・現場社員が対応
- ② 取引先が関わらない問題・・・係長が対応
- ③ 取引先が関わる問題・・・課長が対応
- ④ 大口の取引先や社内会計に大きな影響がある問題・・・部長
上記のように、エスカレーションをすべき内容と担当者をある程度決めておくことで、対応すべき問題と担当者に迷わず行動することができるでしょう。
エスカレーションのフローチャートを作成する
エスカレーションをする際の一連の流れをまとめたフローチャートを決めておきましょう。
エスカレーション先やその後の報告の流れを決めておくことで、無駄なフローを避けて問題に対処することができます。
先述したエスカレーションのレベル設定と被る部分もありますが、フローチャートを作成する際のポイントは以下の通りです。
- 相談内容と相談先を決めておく
- エスカレーションを行う媒体を決めておく
- 連絡が返ってこなかった際の予備のルートを用意しておく
エスカレーションが必要になる案件の中には、今すぐ対応が必要になるものもあります。
そのようなケースでも焦らずにエスカレーションを行うためには、どの媒体で連絡をするのかを決めておくことも大切です。
メールやチャットではなく常に繋がる電話番号の準備もしておきましょう。
また、エスカレーションすべき相手に連絡が取れなかった際の対応についても決めておく必要があります。
- ◯分以内に返信が来なければAさんに対応を任せる
- Aさんが休暇中の場合はBさんが対応権限を持つことにする
上記のようにトラブル時のルートも設定することで、様々なケースで迅速にエスカレーションを行うことができます。
報告者には責任を問わない旨を明記する
実務的なルールではありませんが、エスカレーションを行う際は事案を報告した人へは責任を問わないことを全員が理解しておく必要があります。
何かあった時に報告者が責任を負わなければならない仕組みにしてしまうと、無理に現場で解決しようとして事態を悪化させてしまう可能性があります。
そのような環境では事案を隠蔽しようとするマインドにもなりかねません。
エスカレーションは、緊急事態やインシデントを迅速・的確に解決するための手段なので、全ての従業員が不安なく行えるようにしておきましょう。
エスカレーション時も伝え方は大事
エスカレーションはルールだけでなく「どのような言葉を使って事案を伝えるか」も意識しなければなりません。
エスカレーションをする媒体がメールであれ電話であれ、正確に相手に状況を伝えられなければ意味がありません。
ここからは、エスカレーションを行う方が意識すべき「伝え方のポイント」を解説します。
5W1Hを守る
5W1Hとは「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」といった、コミュニケーションをする際のフレームワークをまとめた言葉です。
場合によっては「なぜ」や「どのように」を省略することがありますが「いつ・どこで・誰が・何を」が一つでも欠けてしまうと、正確なエスカレーションができなくなります。
また5W1Hがないコミュニケーションは、報告者と上司の間での確認作業が必要になるためコミュニケーションコストも増加します。
伝える媒体を問わず、一度で状況を伝えられるようにまとめましょう。
内容を正確に伝える
5W1H以外にも、業種や事案によっては追加すべき情報があります。
例えば、以下のような情報はエスカレーション時に上司に伝えることで、担当者が正確に事態を把握し対処に臨むことができるようになります
- お客様の性別
- お客様のクレーム歴
- 初期対応
特に、クレーム対応などの人的な問題をエスカレーションする場合は、性別や温度感を伝えることでスムーズな対処が可能になる場合もあります。
5W1Hを意識した上で、問題の解決につながりそうな情報についてもまとめられるとベストです。
ビジネスメールの体裁は守る
迅速な情報共有を求められるエスカレーションでも、ビジネスメールの体裁を崩してしまうと印象の悪い文面になってしまいます。
自分よりも役職が上の方とやりとりをしなければならないので、不躾な文面にならないように注意をしましょう。
まとめ
エスカレーションとは、業務内で自身では責任を負うことができない事案やインシデントについて上司の判断を仰ぐことを意味するビジネス用語です。
エスカレーションを行うことで、発生した問題を的確に対処できるだけでなく、自分や企業への被害を最小限に抑えられるでしょう。
業種によっては違ったニュアンスを持つこともありますが、エスカレーションのルールや注意すべきポイントは同じです。
人同士のコミュニケーションによって事態を伝えなければならないため、使用する媒体を問わず、情報を正確にわかりやすく伝える必要があります。
また、急いでいるからどんな言葉でも良い訳ではないことも覚えておきましょう。
正確さや迅速さは大事ですが、上司とのコミュニケーションであることを忘れてはいけません。
とは言え、緊急事態の時に「どうすれば上司に失礼のない言葉遣いができるか……」と気を使いすぎてしまっていては本末転倒です。
正確性やスピードを損なわずに、上司との関係も悪化させないエスカレーションをするためにも、普段からビジネス用語を正しく理解・使用するように意識しておきましょう。
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どのような状況でも、ビジネスマンとして正しい振る舞いができるような準備をしておきましょう。