
取引先やお客様が、自社までわざわざ訪問してくださった時。 「遠いところ、ご足労をおかけしました」と挨拶するのはビジネスの定番ですが、相手との関係性やシチュエーションによっては、もっと適切な表現があることをご存知でしょうか?
また、同じ相手に何度も「ご足労」を繰り返すと、言葉が単調になり、感謝の気持ちが伝わりにくくなることもあります。「目上の人に使っても失礼ではない?」 「Web会議の場合でも使っていいの?」様々な疑問があることでしょう。
本記事では、「ご足労」の正しい意味と使い方はもちろん、シーンに合わせて使い分けたい「5つの言い換え表現(類語)」や、メールですぐに使える具体的な文例を紹介します。感謝の気持ちをスマートに伝えられるビジネスパーソンを目指しましょう。
目次
「ご足労」の意味
「ご足労」は「足労」という、足を使って移動することによる疲労や労力を意味する言葉に、丁寧表現の「ご」をつけた言葉です。ビジネスだけでなく、冠婚葬祭のようなフォーマルな対応が求められる場合によく使われており、立場に関係なくこちらに出向いてくださったことへの敬意を表現します。
あまりに近い距離からきた相手には使われないこともありますが、ビジネス用語としてはクッション言葉としても使われているため、相手の移動距離に関わらず使われています。
例えば、相手が数百メートル離れた隣駅から自社に出向いてきたとしても「本日はこちらまでご足労いただき、申し訳ありません」と伝えても違和感はありません。「ご足労」という言葉にだけ注目すると、足を使って移動をしたことによる疲労を指した文章になります。
しかし「ご足労」を含むフレーズには「わざわざ時間を作ってこちらに来てくださって、ありがとうございます」というニュアンスも含まれています。そのため、物理的な距離に関わらず相手が移動してくださった際には、感謝と謝罪の気持ちを表現しましょう。
「ご足労」を使うシーン
「ご足労」が使われるのは、主に取引先やお客様が移動して自身の元に来られた時です。「ご足労いただきありがとうございました」と、移動後の相手に対して使われることが多いですが、文末表現を変えることで移動を依頼する際にも使われています。
ここからは「ご足労」を使うシーンについて解説します。
相手が来社された時
相手がミーティングや商品説明などで自社に来訪された時に「本日はご足労いただきありがとうございます」というフレーズを使います。一般的には飛び込み営業のような自主的に来社した相手ではなく、お互いの合意の上で来られた相手に対して使われています。
ただし、セミナーや店舗への来客はお客様が自主的に来訪しているとはいえ集客をしているのは自社になるので「ご足労いただきありがとうございます」を使っても問題ありません。
相手が待ち合わせ場所に来られた時
待ち合わせでは相手だけでなく自分も移動をしていますが「自分のことはさておき、こちらまで来ていただいてありがとうございます」という意味で「ご足労」が使われます。
このケースでは口語でのコミュニケーションが想定されるので、以下のように「ご足労」を使いましょう。
- 遠いところ、ご足労をおかけしてすみません
- 本日はご足労をおかけしまして恐縮です
メールでは重複した表現は冗長的な印象を与えるため避けなければなりませんが、口語の場合は相手と会った直後だけでなく、別れる際にも「ご足労」を使っても問題ありません。相手が来てくれたことへの感謝を言葉にして伝えましょう。
相手に移動を依頼する時
相手に「申し訳ありませんが自社まで来てもらえないでしょうか」というニュアンスを伝える際にも「ご足労」が使われます。
ただし、このケースで「ご足労」を使う際は、相手に対して高圧的な印象を与えないような配慮が必要になります。詳しくは後半で解説しているので、最後まで是非ご覧ください。
「ご足労」を使った例文
前項で解説したシーンごとに「ご足労」を使った例文をご紹介します。
相手が来社された時
相手が来社された時は以下のように「ご足労」を含むフレーズを使います。
- 遠い中ご足労いただきありがとうございます。
- お足元の悪い中、ご足労いただき申し訳ありません。
- 本日はご足労をおかけいたしました。これからも是非よろしくお願いします。
こちらも、待ち合わせ場所で使うケースと同じように、口語で「ご足労」のフレーズを使うことになるでしょう。例文のように文末表現は「ありがとうございます」でも「申し訳ありません」でも失礼には当たりませんが、後者の方がより丁寧な印象を与えることができます。
相手が待ち合わせ場所に来られた時
待ち合わせ場所で取引先やお客様と会った時も、前項のような表現をしましょう。
- こちらまでご足労いただき、ありがとうございます。
- お忙しい中、ご足労いただきまして恐縮です。
- 先日は弊社までご足労をおかけして、申し訳ございませんでした。
複数回にわたってミーティングをしている場合や、以前自社にお招きした方に対しては「先日はご足労いただき申し訳ありませんでした」といったフレーズを使います。
相手に移動を依頼する時
相手に自社への来訪を促す際や、待ち合わせ場所への移動を依頼する際に使われる「ご足労」を使った例文は以下のようになります。
- お忙しい中とは存じますが、弊社までご足労下さりますと幸いです。
- もしご都合がよろしければ、以下の日程でご足労願えますと幸いです。
ビジネス関係にある相手に依頼をする場合は「迷惑をかけてしまい申し訳ありません」といったニュアンスを伝えるのがマナーです。上記の例文では「お忙しい中とは存じますが」や「恐縮です」が、相手への気配りを伝えるための表現になっています。
シーン別「ご足労」の言い換え・類語表現5選
「ご足労」は非常に便利な言葉ですが相手や状況によっては別の表現を使ったほうが感謝の気持ちがより深く伝わることがあります。相手との距離感やその場のフォーマル度合いに合わせて最適な言葉を選べるようになりましょう。ここでは明日からすぐに使える5つの言い換えパターンをご紹介します。
一般的なビジネスシーン:「お越しいただき」「ご来社いただき」
最も汎用性が高く日常的なビジネスシーンで頻繁に使われるのが「お越しいただき」や「ご来社いただき」という表現です。
これらは相手の行為を敬う表現でありながら「ご足労」ほど堅苦しくないため初対面の相手から既存の取引先まで幅広く活用できます。来客時には「本日は遠いところお越しいただき誠にありがとうございます」と伝えるのが自然で好印象です。
相手に手間をかけたことを強調する場合:「お手数をおかけして」
単に移動してもらったことだけでなく訪問に際して資料を準備してもらったり重い荷物を持ってきてもらったりした場合には「お手数をおかけして」という表現が適しています。相手が費やした労力全体に対する配慮を示すことができるからです。
「ご足労」と組み合わせて「ご足労をおかけした上に面倒な手続きまでお願いし申し訳ございません」といった形でお詫びと感謝をセットにする使い方も効果的です。
より丁重な敬語表現:「ご来臨」「ご光臨」
創立記念式典や大規模なパーティなど非常に改まった場においては「ご来臨」や「ご光臨」といった表現を用いることがあります。これらは相手がその場に来てくれることを最上級の敬意を持って表す言葉です。
ただし日常の商談や打ち合わせで使うと過剰な印象を与えてしまいかえって不自然になるため使用するシーンは慎重に見極める必要があります。
親しい間柄や口語表現:「足を運んでいただき」
ある程度関係性が構築できている相手や少し砕けた雰囲気の会話では「足を運んでいただき」という表現が柔らかい印象を与えます。「ご足労」は書き言葉的な響きが強いため会話の中でさらりと感謝を伝えたい場合にはこちらのほうがスムーズに耳に入ることがあります。
「わざわざ足を運んでくださりありがとうございます」と笑顔で伝えれば相手も温かい気持ちになるでしょう。
「ご足労」を使う際の注意点
「ご足労」は相手への謝意や感謝を伝えるフレーズですが、使用が望ましくないケースもあります。
押し付けがましい文面にしない
来訪することを了承していない相手に対して「ご足労をおかけします」と伝えてしまうと、高圧的で自分勝手な印象を与えてしまうでしょう。
もし、自分が以下のようなメールを受け取ったとしたら、相手にどのような印象を抱くかを想像してみてください。
件名
◯◯に関する打ち合わせ
本文
〇〇株式会社 営業部 佐藤様
お世話になっております。株式会社--の高橋です。
先日お電話で相談させていただきました「〇〇」に関するミーティングですが、以下のいずれかの日程で開催したく存じます。
・4月12日 13:00~15:00
・4月15日 14:00~16:00
・4月21日 13:00~15:00
ご足労をおかけし申し訳ありません。
ご検討いただき返信くださいますと幸いです。
(署名)
自分が相手の会社に来訪することを了承していないにも関わらず、すでに出向くことが決定しているような文面は、相手に不快感を与えてしまいます。
このような場合では「ご足労おかけします」ではなく以下のようなフレーズを使い、来訪してほしい意志を伝えるようにします。
- ご足労をおかけしてしまい恐縮でございますが、弊社にお越しいただくことは可能でしょうか
- 設備の関係で貸し会議室での開催を想定しております。お忙しいところとは存じますが、〇〇までご足労いただけますと幸いです
あくまで相手にお願いをする文章にしつつ、相手の労力を使うことに対しての思いやりを表現したフレーズにしましょう。
社内では基本的には使わない
「ご足労」を含むフレーズは、取引先やお客様のような外部の方に向けて使うのが一般的です。
社内で使っても失礼にあたるということはありませんが、過度に丁寧でかしこまった印象を与える可能性があり距離感とマッチしないことが多いためです。社内で「ご足労」を使うのは、日常的に会うことが少ない立場が上の方に対してや、自分のミスを謝罪する時などになります。
- 本日は私の準備不足で資料を忘れてしまい、〇〇部長には大変なご足労をおかけいたしました。申し訳ありませんでした。
- 先方が資料をご覧になりたいとおっしゃっております。スケジュールの関係上、私はオフィスには戻れませんので、ご足労をおかけいたしますが持参いただくことは可能でしょうか。
上記のようなケースや使い方であれば社内で使用しても問題ありません。
Web会議・オンライン商談で「ご足労」は使うべき?
テレワークやZoomなどのWeb会議ツールが普及した現在において言葉の使い方も変化しつつあります。特に物理的な移動を伴わないオンライン商談において「ご足労」という言葉を使うべきかどうか迷う場面が増えています。ここでは現代のビジネス環境に合わせた正しいマナーと表現について解説します。
移動を伴わない場合は「お時間をいただき」が正解
結論から言うとオンライン会議において「ご足労」を使うのは避けたほうが無難です。「ご足労」は文字通り「足を使い移動する労力」をねぎらう言葉ですので自宅や自席から参加できるWeb会議では文脈がおかしくなります。
移動の手間がない場合は「時間を割いてもらったこと」に対して感謝するのがマナーです。したがって「本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます」と伝えるのが最もスマートで適切な表現となります。
オンライン商談での冒頭挨拶・お礼メール文例
オンライン商談では画面越しであるため通常よりも丁寧で分かりやすい言葉選びが求められます。移動がない分だけ相手のスケジュール調整に対する感謝を強調すると良い関係が築けるでしょう。以下にWeb会議ですぐに使える挨拶やメールのフレーズをまとめました。
- 本日はご多忙の折オンラインでのお打ち合わせにお時間をいただきありがとうございます
- 画面越しではございますが本日お話しできることを楽しみにしておりました
- (メール件名)本日はWeb会議にお時間をいただきありがとうございました
- 本来であればこちらから伺うべきところWeb会議での開催にご快諾いただき感謝申し上げます
- (通信トラブル時)接続の不具合でお待たせしてしまい貴重なお時間を奪って申し訳ございません
自身が「ご足労ありがとうございます」と言われた場合の返し方
自分が取引先に「本日はご足労いただきありがとうございます」と言われた場合、以下のようなフレーズを使い相手の配慮への感謝を伝えましょう。
- こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。
- こちらこそお世話になりました。
- とんでもございません。貴重なお時間をいただきありがとうございました。
これらのフレーズは口語・文語を問わず使用することができます。良好なビジネス関係を維持するためにも、相手の厚意をしっかりと受け取り、スマートな返しができるように準備しておきましょう。
「ご足労」を英語で表現すると
「ご足労いただき〜」のようなフレーズを英語で表現する場合は、以下のようになります。
- Thank you for coming today.
- I appreciate your visiting today.
- Thank you for visiting all the way from abroad.
上から順にフォーマルな言い方になっており、一番下の表現では「遠方からお越しいただいてありがとうございます」というニュアンスが含まれています。ビジネス英語のコミュニケーションにも相手を思いやる文化はありますが、日本語ほどバリュエーションに富んでいるわけではありません。
むしろメールのような文語でのやりとりでは、前置きよりも内容が簡潔にまとめられていることが重視されています。同じ取引先とのコミュニケーションでも文語・口語を問わず、日本よりは軽やかなニュアンスで表現をすると文化的にも馴染みやすいかもしれません。
また、日本語のように「すみません」や「申し訳ありません」にあたる言葉が感謝のニュアンスになることがないので「Thank you」や「appreciate」を使いましょう。
FAQ
- Q:「ご足労」とはどのような意味で、どんな場面で使う言葉ですか?
- A:相手が自分のところへ「わざわざ移動して来てくれたこと」に対する感謝やねぎらいを表す言葉です。主に取引先やお客様が自社へ来訪された際に、「本日はご足労いただきありがとうございます」といった形でお礼を伝えるために使用します。
- Q:目上の人に対して使っても失礼にはあたりませんか?
- A:はい、問題ありません。「ご足労」は相手を高める尊敬語(「ご」+「足労」)ですので、目上の人や顧客に対して使うのが正しい用法です。相手の負担を気遣う丁寧な表現として、ビジネスシーンでは頻繁に使用されます。
- Q:「ご足労」を使ってはいけないNGなシチュエーションはありますか?
- A:相手の合意を得ていない段階での呼び出しや、社内の人間(身内)に対して使うのは不適切です。あくまで「相手の厚意で来てもらった」ことへの感謝を伝える言葉であるため、こちらから一方的に呼びつけるような場面では使用を控えましょう。
- Q:「ご足労おかけします」の代わりになる言い換え表現はありますか?
- A:状況に応じて「お越しいただき」「足をお運びいただき」「おいでいただき」などが使えます。同じ意味でも「ご足労」より少し柔らかい表現にしたい場合などは、これらの言葉に言い換えるとよいでしょう。
まとめ
「ご足労」は、移動による疲労や労力を意味する言葉です。
ビジネス用語として使われることが多く、足を運んでくださった相手を労うニュアンスで「ご足労いただきありがとうございました(申し訳ありません)」のような使い方をします。
また、相手に移動を依頼する際には「ご足労をおかけいたしますが、弊社までお越しいただければ幸いです」のように、クッション言葉としても使われています。ビジネス用語の中でも頻繁に使われている「ご足労」ですが、文中に使用する際は以下のような点に注意しましょう。
- 相手の了承を得ていない段階では使用しない
- 基本的には社外の方に対して使う
「ご足労」を含むフレーズは、相手を労い敬意を払うニュアンスが含まれていますが、会話の流れや相手との関係性を踏まえた上で使用しなければ、相手に違和感を与えてしまいます。これは「ご足労」に限った話ではなく、ビジネス用語を使ったコミュニケーションは、相手との距離感に配慮しながら言葉を選ぶ必要があります。
そのため、ビジネス用語のマナーを知らないと、自分が意図していないニュアンスが伝わってしまうことも考えられます。
本記事では「ご足労」にフォーカスし、言葉の意味やビジネス用語としての例文をご紹介しましたが、以下のURLから「コピペして使えるビジネスメール例文集」を無料でダウンロードしていただけます。
ビジネス用語の意味やマナーを理解した上で、自分の伝えたいニュアンスが最大限表現できるように準備をしておきましょう。


