取引先やお客様に対して「ご足労いただきありがとうございます」というフレーズを使ったことはあるでしょうか。
主にビジネスシーンで使われている「ご足労」は、相手が出向いてくれたことへの謝罪と感謝の気持ちを伝える言葉です。
ビジネス用語の中でもよく使われる言葉で、依頼する文章の印象を和らげるクッション言葉としても使われています。
しかし、状況によっては「ご足労」の使用が望ましくない場合もあるので注意しなければなりません。
この記事では「ご足労」の意味や使い方を使用シーンごとの例文と共に解説しています。
また、後半では使用時の注意点や、自身が「ご足労いただきありがとうございます」と言われた際の返し方などもご紹介しています。
「ご足労」をタイミングよく使うことで、相手への気配りを効果的に表現できるようになります。
ビジネスで取引先やお客様と接することが多い方は、是非ご覧ください。
目次
「ご足労」の意味
「ご足労」は「足労」という、足を使って移動することによる疲労や労力を意味する言葉に、丁寧表現の「ご」をつけた言葉です。
ビジネスだけでなく、冠婚葬祭のようなフォーマルな対応が求められる場合によく使われており、立場に関係なくこちらに出向いてくださったことへの敬意を表現します。
あまりに近い距離からきた相手には使われないこともありますが、ビジネス用語としてはクッション言葉としても使われているため、相手の移動距離に関わらず使われています。
例えば、相手が数百メートル離れた隣駅から自社に出向いてきたとしても「本日はこちらまでご足労いただき、申し訳ありません」と伝えても違和感はありません。
「ご足労」という言葉にだけ注目すると、足を使って移動をしたことによる疲労を指した文章になります。
しかし「ご足労」を含むフレーズには「わざわざ時間を作ってこちらに来てくださって、ありがとうございます」というニュアンスも含まれています。
そのため、物理的な距離に関わらず相手が移動してくださった際には、感謝と謝罪の気持ちを表現しましょう。
「ご足労」を使うシーン
「ご足労」が使われるのは、主に取引先やお客様が移動して自身の元に来られた時です。
「ご足労いただきありがとうございました」と、移動後の相手に対して使われることが多いですが、文末表現を変えることで移動を依頼する際にも使われています。
ここからは「ご足労」を使うシーンについて解説します。
相手が来社された時
相手がミーティングや商品説明などで自社に来訪された時に「本日はご足労いただきありがとうございます」というフレーズを使います。
一般的には飛び込み営業のような自主的に来社した相手ではなく、お互いの合意の上で来られた相手に対して使われています。
ただし、セミナーや店舗への来客はお客様が自主的に来訪しているとはいえ集客をしているのは自社になるので「ご足労いただきありがとうございます」を使っても問題ありません。
相手が待ち合わせ場所に来られた時
待ち合わせでは相手だけでなく自分も移動をしていますが「自分のことはさておき、こちらまで来ていただいてありがとうございます」という意味で「ご足労」が使われます。
このケースでは口語でのコミュニケーションが想定されるので、以下のように「ご足労」を使いましょう。
- 遠いところ、ご足労をおかけしてすみません
- 本日はご足労をおかけしまして恐縮です
メールでは重複した表現は冗長的な印象を与えるため避けなければなりませんが、口語の場合は相手と会った直後だけでなく、別れる際にも「ご足労」を使っても問題ありません。
相手が来てくれたことへの感謝を言葉にして伝えましょう。
相手に移動を依頼する時
相手に「申し訳ありませんが自社まで来てもらえないでしょうか」というニュアンスを伝える際にも「ご足労」が使われます。
ただし、このケースで「ご足労」を使う際は、相手に対して高圧的な印象を与えないような配慮が必要になります。
詳しくは後半で解説しているので、最後まで是非ご覧ください。
「ご足労」を使った例文
前項で解説したシーンごとに「ご足労」を使った例文をご紹介します。
相手が来社された時
相手が来社された時は以下のように「ご足労」を含むフレーズを使います。
- 遠い中ご足労いただきありがとうございます。
- お足元の悪い中、ご足労いただき申し訳ありません。
- 本日はご足労をおかけいたしました。これからも是非よろしくお願いします。
こちらも、待ち合わせ場所で使うケースと同じように、口語で「ご足労」のフレーズを使うことになるでしょう。
例文のように文末表現は「ありがとうございます」でも「申し訳ありません」でも失礼には当たりませんが、後者の方がより丁寧な印象を与えることができます。
相手が待ち合わせ場所に来られた時
待ち合わせ場所で取引先やお客様と会った時も、前項のような表現をしましょう。
- こちらまでご足労いただき、ありがとうございます。
- お忙しい中、ご足労いただきまして恐縮です。
- 先日は弊社までご足労をおかけして、申し訳ございませんでした。
複数回にわたってミーティングをしている場合や、以前自社にお招きした方に対しては「先日はご足労いただき申し訳ありませんでした」といったフレーズを使います。
相手に移動を依頼する時
相手に自社への来訪を促す際や、待ち合わせ場所への移動を依頼する際に使われる「ご足労」を使った例文は以下のようになります。
- お忙しい中とは存じますが、弊社までご足労下さりますと幸いです。
- もしご都合がよろしければ、以下の日程でご足労願えますと幸いです。
ビジネス関係にある相手に依頼をする場合は「迷惑をかけてしまい申し訳ありません」といったニュアンスを伝えるのがマナーです。
上記の例文では「お忙しい中とは存じますが」や「恐縮です」が、相手への気配りを伝えるための表現になっています。
「ご足労」の言い換え表現
「ご足労(いただき)」には、以下のような言い換え表現があります。
- ご来訪いただき
- お越しいただき
- 足をお運びいただき
- おいでいただき
上から順にフォーマルな表現になっています。
どれも「ご足労」と同じニュアンスで使われる言葉なので、使用するケースもほとんど同じです。
ただし「この度は、ご来訪いただき誠にありがとうございます」のように、文末表現は「ありがとうございます」とするのが自然です。
労力をさいてくださった相手への敬意をより伝える場合は「ご足労いただき恐縮です」や「ご足労いただき申し訳ありません」を使いましょう。
「ご足労」を使う際の注意点
「ご足労」は相手への謝意や感謝を伝えるフレーズですが、使用が望ましくないケースもあります。
押し付けがましい文面にしない
来訪することを了承していない相手に対して「ご足労をおかけします」と伝えてしまうと、高圧的で自分勝手な印象を与えてしまうでしょう。
もし、自分が以下のようなメールを受け取ったとしたら、相手にどのような印象を抱くかを想像してみてください。
件名
◯◯に関する打ち合わせ
本文
〇〇株式会社 営業部 佐藤様
お世話になっております。株式会社--の高橋です。
先日お電話で相談させていただきました「〇〇」に関するミーティングですが、以下のいずれかの日程で開催したく存じます。
・4月12日 13:00~15:00
・4月15日 14:00~16:00
・4月21日 13:00~15:00
ご足労をおかけし申し訳ありません。
ご検討いただき返信くださいますと幸いです。
(署名)
自分が相手の会社に来訪することを了承していないにも関わらず、すでに出向くことが決定しているような文面は、相手に不快感を与えてしまいます。
このような場合では「ご足労おかけします」ではなく以下のようなフレーズを使い、来訪してほしい意志を伝えるようにします。
- ご足労をおかけしてしまい恐縮でございますが、弊社にお越しいただくことは可能でしょうか
- 設備の関係で貸し会議室での開催を想定しております。お忙しいところとは存じますが、〇〇までご足労いただけますと幸いです
あくまで相手にお願いをする文章にしつつ、相手の労力を使うことに対しての思いやりを表現したフレーズにしましょう。
社内では基本的には使わない
「ご足労」を含むフレーズは、取引先やお客様のような外部の方に向けて使うのが一般的です。
社内で使っても失礼にあたるということはありませんが、過度に丁寧でかしこまった印象を与える可能性があり距離感とマッチしないことが多いためです。
社内で「ご足労」を使うのは、日常的に会うことが少ない立場が上の方に対してや、自分のミスを謝罪する時などになります。
- 本日は私の準備不足で資料を忘れてしまい、〇〇部長には大変なご足労をおかけいたしました。申し訳ありませんでした。
- 先方が資料をご覧になりたいとおっしゃっております。スケジュールの関係上、私はオフィスには戻れませんので、ご足労をおかけいたしますが持参いただくことは可能でしょうか。
上記のようなケースや使い方であれば社内で使用しても問題ありません。
自身が「ご足労ありがとうございます」と言われた場合の返し方
自分が取引先に「本日はご足労いただきありがとうございます」と言われた場合、以下のようなフレーズを使い相手の配慮への感謝を伝えましょう。
- こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。
- こちらこそお世話になりました。
- とんでもございません。貴重なお時間をいただきありがとうございました。
これらのフレーズは口語・文語を問わず使用することができます。
良好なビジネス関係を維持するためにも、相手の厚意をしっかりと受け取り、スマートな返しができるように準備しておきましょう。
「ご足労」を英語で表現すると
「ご足労いただき〜」のようなフレーズを英語で表現する場合は、以下のようになります。
- Thank you for coming today.
- I appreciate your visiting today.
- Thank you for visiting all the way from abroad.
上から順にフォーマルな言い方になっており、一番下の表現では「遠方からお越しいただいてありがとうございます」というニュアンスが含まれています。
ビジネス英語のコミュニケーションにも相手を思いやる文化はありますが、日本語ほどバリュエーションに富んでいるわけではありません。
むしろメールのような文語でのやりとりでは、前置きよりも内容が簡潔にまとめられていることが重視されています。
同じ取引先とのコミュニケーションでも文語・口語を問わず、日本よりは軽やかなニュアンスで表現をすると文化的にも馴染みやすいかもしれません。
また、日本語のように「すみません」や「申し訳ありません」にあたる言葉が感謝のニュアンスになることがないので「Thank you」や「appreciate」を使いましょう。
まとめ
「ご足労」は、移動による疲労や労力を意味する言葉です。
ビジネス用語として使われることが多く、足を運んでくださった相手を労うニュアンスで「ご足労いただきありがとうございました(申し訳ありません)」のような使い方をします。
また、相手に移動を依頼する際には「ご足労をおかけいたしますが、弊社までお越しいただければ幸いです」のように、クッション言葉としても使われています。
ビジネス用語の中でも頻繁に使われている「ご足労」ですが、文中に使用する際は以下のような点に注意しましょう。
- 相手の了承を得ていない段階では使用しない
- 基本的には社外の方に対して使う
「ご足労」を含むフレーズは、相手を労い敬意を払うニュアンスが含まれていますが、会話の流れや相手との関係性を踏まえた上で使用しなければ、相手に違和感を与えてしまいます。
これは「ご足労」に限った話ではなく、ビジネス用語を使ったコミュニケーションは、相手との距離感に配慮しながら言葉を選ぶ必要があります。
そのため、ビジネス用語のマナーを知らないと、自分が意図していないニュアンスが伝わってしまうことも考えられます。
本記事では「ご足労」にフォーカスし、言葉の意味やビジネス用語としての例文をご紹介しましたが、以下のURLから「コピペして使えるビジネスメール例文集」を無料でダウンロードしていただけます。
ビジネス用語の意味やマナーを理解した上で、自分の伝えたいニュアンスが最大限表現できるように準備をしておきましょう。