「ROI」について調べていると、記事によって「費用対効果」とか「投資利益率」など呼ばれ方が違ったり、「ROAS」のような意味も字面もよく似た指標が出てきたりして、混乱することがあるでしょう。
そのようなROIについて学び始めたばかりの人はもちろん、「ROIの意味はわかるが、活かし方がイマイチわからない」という人にとっても、本記事は参考になる内容となっています。
ぜひ最後まで読んでみてください。
マーケティングをはじめるなら、必ず押さえておきたいのが「デジタルマーケティング」についてです。
デジタルマーケティングは近年、マーケティング業界で大きく注目を浴びており、マーケティングに少しでも携わる方なら「どんなマーケティング手法なのか」を知っていて損はありません。
このブログでは大好評の「デジタルマーケティング大全」を無料プレゼント中です! 初心者向けに分かりやすく解説していますので、ぜひご一読ください。
目次
ROIとは? 計算式はずばり「利益 ÷ 投資額 × 100」
ROI(アールオーアイ、ロイ)とは「Return On Investment(投資利益率)」の略で、ある事業や施策において、投下した資本に対しての収益性を図る指標です。です。
基本的には経営や株式の指標として見られるROIですが、マーケティングの文脈においてもよく用いられます。
計算式は下記の通りです。
利益 ÷ 投資額 × 100 = ROI(%)
マーケティングの文脈においては、投資額を「コスト」とか「経費」などに言い換えても構いません。ここでの「投資」は、投じる資金よりも多くのリターンを期待して、お金を投じること、というざっくりとした解釈で大丈夫です。
「利益」という言葉についても、売上を生むためにかけたコスト(諸経費、販管費、投資額など)を売上から引いた金額、という大雑把な捉え方で今のところは大丈夫です。
文脈によるROIの違いについては後ほど詳しく書くので、まずはとにかく、ROIを実際にざっくりと算出してみましょう。ある事業に対して2億円を投資して、4億円の利益が出た場合は以下のようになります。
4億円 ÷ 2億円 × 100 = 200%
このようにROIはパーセンテージで表し、数字が高ければ高いほどその事業・施策への投資が上手くいったと判断できます。ROIが150%となる事業と、ROIが200%になる事業では後者の方が収益性が高いと判断できます。また、ROIが0%未満の場合はその事業が赤字になっていることを意味し、マイナスが大きければ大きいほど投資額に対して赤字が大きいと判断可能です。
なお、ROIは「費用対効果」であると説明されることもありますが、これも間違いではありません。本稿では、後に登場するROAS(広告費用対効果)との明瞭な区別を図るため、より厳密な表現である「投資利益率」を採用することとします。
ややこしいROI事情について徹底解説
先の説明で、ROIは経営・株式指標として見られるのが基本であるが、マーケティング指標として見られることもあると書きました。また、ROIと意味が似ているROASという指標もあり、指標初心者はROIを理解するのに少々混乱することがあります。
そこでこちらの見出しでは、文脈が異なるときのROIの考え方と、ROASとROIの違いについて解説していきます。
経営や投資におけるROIと、マーケティングにおけるROIの違い
経営・株式指標のROIと、マーケティング指標としてのROIはどのように違うのか? 結論をいうと、スケールや文脈が異なっても「投資利益率」という根本的な意味合いは変わりません。変わるのはROIを具体的にどのように当てはめるか、どのように利用するか、ということだけです。
たとえばリアル店舗をチェーン展開していくような会社の経営者としてなら、各店舗を開店するためにかかった費用をコストを投資額と置き換えてROIを出すことがあるでしょう。
1~2年後に各店舗のROIを算出し、マイナスの店舗もしくは低い店舗があれば、店舗撤退させROIが高い店舗に資本投下するなど、経営判断に活かせます。もしROIがマイナスの店舗があれば、その店舗の営業を続けるほど赤字が膨らむだろう、ということが予測できます。
立場を変えて広告運用者としてROIを考えるなら、広告費を投資額とみなし、広告経由で生まれた売上から利益を出してROIを算出することも可能です。そうすれば各クリエイティブでROIを出し、効果が最も高かったものに広告費を集中投下するという判断がくだせます。
マーケティング効果を測るためにROIを出すときは、まずマーケティングとは関係ないコスト(販管費や商品原価など)を売上高から差し引いて、マーケティングによるマーケティングにかかったコストを売上高から差し引いた金額を利益として扱うことで、マーケティングROIを算出できます。
マーケティングによる利益(売上高から販管費や原価などといった、マーケティングと関係ないコストをすべて引いた金額) ÷ マーケティングコスト × 100 = マーケティングROI
要するに、投資(コスト)に対していくら利益が出たか、という発想はどのような仕事にも当てはめられるということです。あまりむずかしく考えず、ROIの根本的な意味合いを大切にしてください。
ROIとROAS(費用対効果)の違い
マーケティング文脈のROIについて理解しようとすると、ROASとの違いがわからなくてすこしつまづくことがあります。
違いについて説明するために、ROASの概要から先に説明しましょう。ROAS(ロアス)とは「Return On Advertising Spend(広告費用対効果)」の略で、広告運用において、投じた広告費に対してどれほどの売上が出たかを表す指標となります。
売上 ÷ 広告費 × 100 = ROAS
もう答えは出ましたね。ROIは利益が分子に、ROASは売上が分子に来るというのが、計算上の違いです。投資額や広告費といった、コスト面が分母に来るのは両者共通しています。
ROI | ROAS | |
意味 |
投資額に対していくらの利益が出たか | 広告費に対していくらの売上が出たか |
計算式 |
利益 ÷ 投資額 × 100 | 売上 ÷ 広告費 × 100 |
損益分岐点 |
0% | 100% |
ROIの考え方が経営からマーケティングまで広く当てはめられるように、ROASの考え方も、広告からマーケティング、そして経営まで当てはめることは可能なのです。たとえば、事業Aにかけた総コストと総売上がすでに把握できている状態を想像してみてください。
総コストというのは文字通りの意味で、仕入れ値や広告費といった変動費、販管費、そして人件費など、事業Aという枠の中で発生しうるあらゆるコストを含むと考えてください。そして、総売上についても同様です。
では、仮に総コストは2,400万円で、総売上が7,200万円だったとしましょう。ROASはすぐに算出できますよね。
総売上 | 総コスト(投資額) | ROAS | ||
7,200万円 | ÷ | 2,400万円 | × 100 = | 300% |
そしてROIもすぐに出せます。利益とコストが計算式を構成しているからです。
利益 | 総コスト(投資額) | ROI | ||
4,800万円
= (7,200万円 – 2,400万円) |
÷ | 2,400万円 | × 100 = | 200% |
ROIとROASの大きな違いを強いて挙げるなら、ROASの方が利益を出す手間がない分「早い指標ではあるが、ROIよりも精度は低い」といった具合になります。ROIはその反対に、「遅いが精度は高い」ということですね。
実際、広告運用のような細かいスパンでPDCAを要求される場面ではROASがよく使われますが、株式取引や会計の場面でROASを参考にすることは滅多にありません。そもそもROASは広告の効果を知るための指標として生まれた経緯があるというのも、その理由でしょう。
ROIの利点や性質
ここからはROIの性質やが具体的にどう活かせるかについて解説していきます。
事業・施策が結果的に成功したかどうか判断できる
事業・施策をある程度継続し、結果的に成功したかどうかを判断するときに、ROIはよく使われます。「成功したかどうかを判断するなら金額でもいいのでは」と思うかもしれませんが、ROIであれば金額の規模という情報を排して事業・施策を評価できるという利便性があります。
ただし、投資してから実際に利益が生まれるまでには、取り組む事業・施策の性質によって長い時間がかかることもあります。よってROIがマイナスだからといって、事業・施策が失敗したと決定づけられるかどうかは一概には言えません。
こういった性質もあり、ROIは長期間にわたって少しずつ利益が生まれるような施策を評価するのには少々向かないという側面もあります。
規模の異なる事業・施策の取捨選択や改善がしやすくなる
ROIを用いることで、規模の異なる事業・施策の効果を比較しやすくなります。たとえば営業1課は30人いるが、2課は5人だけ、という場合などです。
ある月、1課は2,000万円の利益を出し、2課は600万円の利益だったとしましょう。投資額については、社員一人あたり100万円のビジネスインフラコストのみかかったとすると、下記のようなROI計算結果が得られます。
- 1課 …… ROI 60% = 1,800万円 ÷ 3,000万円(30人×100万円) ×100
- 2課 …… ROI 120% = 600万円 ÷ 500万円(5人×100万円) ×100
これがわかれば、2課の営業ノウハウを1課に共有させる、2課の扱う商材を1課でも一斉に扱わせる、というような営業戦略を取ることで、より多くの利益を期待できます。
このように、規模が異なって一見比較しにくい状況であっても、ROIの考えを当てはめることで比較しやすくなるのです。
異なる業種や部門同士の評価には向かない
業種や部門が異なると、ROIの水準も異なってきます。そのため、異なる業種や部門同士のパフォーマンスを比較するのに、ROIはあまり向きません。
たとえば製造業を主とする企業AのROIが20%で、金融業の主とする企業BのROIが300%だとしましょう。どちらの企業が効率よく資金を使えてるかといえば、数字だけを見れば当然企業Bの方なのですが、だからといって企業Bの方が絶対的に優れているとは言い切れませんよね。
なぜなら製造業と金融業では条件がまったく異なるからです。製造業では工場の生産上限のような売上の物理的上限がありますが、金融業は無形商材を取り扱うため、売上の物理的上限はありません。
これは社内の部門同士でも同じことが言えます。マーケティング部門と営業部門の比較にROIを用いてしまったら、的を大きく外した分析になってしまうことでしょう。
ROIを改善するのに直接役立つ施策
ROIを改善するには無数の施策が考えられますが、その中でも直接役立つ施策をご紹介します。
売上を維持しつつ投資額を削減する
売上を減らさずにコストを削減できれば、ROIは改善されます。売上を維持しつつコストが減れば、利益が増えるためです。
投資額を維持しつつ売上を増やす
投資額はそのままに売上だけを増やせればROIは改善されます。コスト削減のときと同様、そうすれば利益が増えるためです。
「コスト削減とか売上を伸ばすとか、それができれば改善されるのは当たり前だろう」と思われるかもしれませんが、その通りです。
どうすれば売上を維持しつつコストを削減できるかや、どうすればコストを据え置きつつ売上を伸ばせるか……そういったむずかしい局面を切り抜けられるかどうかが、マネジメントの腕の見せ所なのではないでしょうか。
また、ROIが高いばかりがすべてではありません。結局のところ、率ではなく金額としてどれだけ利益を得られたかどうかも、ビジネスでは重要です。
ROIの改善、すなわち投資額に対する効率性ばかりに固執し、利益をスケールさせるチャンスを逃してしまっては本末転倒です。ひとつの指標を意識しすぎてしまうと、視野狭窄に陥ってしまうことがあるので、十分気をつけましょう。
ROIはどんな指標? まとめ
ROIとは、「投資したお金に対してどれだけ利益が出たか」を表す指標です。経営、株式取引、マーケティングなど、ありとあらゆる場面で用いられます。
よく似た指標にROASがありますが、ROASは「かけた広告費に対してどれだけ売上が出たか」を表す指標です。ROIとの計算上の違いは、売上を分子にする点にあります。分母にコストを設定する部分ではROIと同じです。
なお、本記事ではROIの算出をいとも簡単にやってのけましたが、現場ではそう単純にいかないこともあります。
実際には細かい会計の要素や、それこそどのレイヤー(マーケティングなのか、営業なのか、1部か2部かなど)を評価するためにROIを割り出すかという問題も絡んでくるためです。
たとえば営業経由で売れるパターンとWeb完結で売れるパターンどちらもあって、営業経由で売れるパターンでも、Webマーケティングの影響度が高い可能性がある、という微妙なケースもありうるでしょう。
ここまで来ると結構むずかしい問題で「これが正解」というのはないのですが、あえてアドバイスをしておきます。精度の高いROI・ROASを算出するのにためには「取り扱う利益・売上と投資額(コスト)の間に高い相関性があるかどうか」ということを重視してください。