
上司や取引先から質問されたことに対して、「あ、それは知りません」と答えてしまい、冷や汗をかいた経験はありませんか。
「知らない」を丁寧に伝える敬語として「存じ上げません」がありますが、実は似た言葉である「存じません」と混同して使っているケースが非常に多いです。この2つ、実は「対象が人か、物か」によって明確に使い分ける必要があることをご存知でしょうか?
誤った使い方をすると、相手に「マナーを知らない」「冷たい」という印象を与えかねません。そこでこの記事では、メール配信システムのプロであるブラストメールが、以下のポイントを分かりやすく解説します。
- 「存じ上げません」と「存じません」の決定的な違い
- 【一目でわかる】使い分け早見表
- 角を立てずに「知らない」と伝えるクッション言葉テクニック
この記事を読めば、とっさの場面でも自信を持って正しい敬語が使えるようになり円滑なコミュニケーションが可能になります。ぜひ最後までご覧ください。
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目次
「存じ上げません」の正しい意味
まずは「存じ上げません」という言葉の正しい意味を解説します。存じ上げません、とは「知らない」の謙譲語です。
ベースになっているのは「存じ上げます(知っています)」という言葉ですが、その否定語として使われる様になったようです。日本語は普通語から丁寧語、謙譲語という順番でフォーマルな表現に変化します。
つまり「知らない(普通語)」から「知りません(丁寧語)」、「存じ上げません(謙譲語)」という形で活用されます。
「存じ上げません」の正しい使い方
「存じ上げません」を含む謙譲語は、自分がへりくだる事で相手を上に立たせる場合に使います。
相手に対して「存じ上げない」を使ってしまうと、相手の立場を下げることになるため、失礼な表現になります。存じ上げませんの正しい使い方の例をご紹介します。
- 私は社長の居場所を存じ上げません
- 僕は営業課の課長の名前は存じ上げません
NGな用法の例としては、自分から「社長がどこにいらっしゃるか存じ上げませんか?」と上司に聞いてしまった場合などがあげられます。この例では、存じ上げないのは自分ではなく上司になっているので、失礼な聞き方になっています。
同様の場合での正しい聞き方は「社長がどこにいらっしゃるかご存知ありませんか?」です。または「ご存知ですか?」や「ご存知でいらっしゃいますか?」などでも良いでしょう。
他にもよくビジネスで使われる謙譲語として「拝見します」という言葉がありますが、この言葉も、拝見する(見る)のは常に自分で、相手に「拝見してください」とは言いません。
「存じ上げません」と「存じません」の違い
存じ上げませんと似たような言葉に「存じません」というものがありますが、冒頭でもご紹介したように、よく誤った用法で使われることがあるので注意しましょう。
存じ上げませんを含む謙譲語は基本的に言葉の対象が人である場合によく使われます。
先ほどご紹介した例も「社長」や「営業課の課長」のように言葉の対象は人になっています。
一方の「存じません」は、知らない物が人ではない場合によく使われます。
- 詳細は存じません
- 最終的な金額は存じません
上記のように、存じない対象がものでない場合は「存じ上げません」ではなく「存じません」を使いましょう。
仕事では「存じ上げません」を使う前にクッション言葉を使う
ビジネスシーンで「存じ上げません」という言葉を使う場合は、突き放した表現にならないように注意が必要です。
相手に乱暴な印象をもたれないようにするためにも「申し訳ありませんが」や「私の勉強不足で」、「恐れ入りますが」などのクッション言葉を使うことをお勧めします。
日本語的には相手を敬った言葉ですが、相手の顔が見えないメールでは特に「存じ上げません」とだけ伝えることで、相手からの印象を悪くしてしまう可能性があります。
表情がわからないメールだからこそ、細心の注意をはらって文章を作成しましょう。
「存じ上げません」を使ったメールの例文
ここからは、メールで「存じ上げません」を使った例文をご紹介します。
件名
お客様来訪の件
本文
お疲れ様です。本日の14:00に佐藤課長へ〇〇商事からお客様がお見えになったそうです。
対応した者が帰ってしまったので、お客様の事は存じ上げませんが、課長宛に封筒を置いて行かれました。
頂いた封筒は私が預かっておりますので、お戻りの際にお渡しいたします。
署名
存じ上げません、が掛かっている言葉は「お客様」なので用法的にも問題はありません。
次に、知らない対象が人以外である時によく使われる「存じません」を使ったメールの例文をご紹介します。
件名
セミナー来場数について
本文
〇〇株式会社 佐藤様
お世話になっております。先日お問い合わせいただきました、セミナーの来場者の詳細に関しましてですが、恐れ入りますが細かな数字までは当方では存じておりません。
上記の例文では「数字」が対象になってるので「存じ上げません」よりも「存じておりません」のほうが適切です。
「存じ上げません」と「分かりかねます」はどう違う?
ビジネスシーンにおいて、相手の質問に答えられない場面は多々あります。その際、「存じ上げません(存じません)」と「分かりかねます」のどちらを使うべきか迷うことがあるかもしれません。
どちらも「No」を伝える言葉ですが、この2つは「なぜ答えられないのか」という理由によって明確に使い分ける必要があります。誤った方を使うと、会話がかみ合わなかったり、無責任な印象を与えたりする可能性があるため注意が必要です。
知識・面識がない場合は「存じ上げません」
「存じ上げません(または存じません)」は「知っている」の謙譲語である「存じ上げる(存じる)」の否定形です。つまり、単にその知識や情報を「持っていない」、あるいはその人物と「面識がない」という事実を伝える場合に使用します。
例えば「〇〇社の田中様をご存知ですか?」と聞かれ、会ったことがない場合に「いいえ、存じ上げません」と答えるのが適切です。ここには「判断」の要素はなく、純粋な知識の有無が基準となります。
「判断できない・事情が不明」な場合は「分かりかねます」
一方で「分かりかねます」は「理解する・判断する」ことが「難しい(〜しかねる)」という意味を持ちます。知識として知っているかどうか以前に、「現在の状況や自分の権限では、答えを出すことができない」という場合に使用します。
例えば、「このプロジェクトはいつ完了しますか?」と聞かれ、進捗が読めず答えられない場合に「現時点では分かりかねます」と答えます。ここで「存じません」を使うと、「プロジェクトの存在自体を知らない」という意味に取られかねないため不適切です。「判断や回答が難しい」というニュアンスを伝えたいときは「分かりかねます」を選びましょう。
【図解】シーン別「知らない」の敬語使い分け早見表
とっさの場面で迷わないよう、状況に応じた正しい敬語の使い分けを表にまとめました。対象が「人」か「物」か、そして状況が「知識不足」か「判断不可」かで判断してください。
| 状況 | 対象 | 適切な敬語 | 使用例 |
| 知識・面識がない | 人 | 存じ上げません | 「田中様のことは存じ上げません」 |
| 知識・情報がない | 物・事 | 存じません | 「その件については存じません」 |
| 判断・回答ができない | 物・事 | 分かりかねます | 「今後の見通しについては分かりかねます」 |
「分かりかねます」は便利な言葉ですが、多用すると「答える気がない」と受け取られるリスクもあります。「確認して折り返します」などの前向きな言葉を添えるのがベストです。
「お名前は存じ上げております」は魔法の言葉
「存じ上げない」という言葉は否定形であるため、どうしても冷たい印象を与えがちです。しかし、逆に「存じ上げている」という肯定形をうまく使うことで、初対面の相手との距離を一気に縮めることができます。
特にビジネスにおいては「あなたに関心があります」「あなたの評判を聞いています」と伝えることが、最強の信頼構築ツールになります。
「会ったことはない」をポジティブに伝えるテクニック
初めて会う相手や初めてメールを送る相手に対して「お会いするのは初めてですね(会ったことはありませんね)」と事実をそのまま伝えると、少し他人行儀な空気が流れてしまいます。そこで使いたいのが、「お名前はかねがね存じ上げております」というフレーズです。
これは「お会いするのは初めてですが、あなたのご活躍やお名前は以前から聞いて(知って)いました」という意味になります。単に「面識がない」というマイナスを埋めるだけでなく、「有名ですよね」「ずっとお会いしたかったです」という敬意と好意を含んだポジティブなメッセージに変換できるのです。
- NGな挨拶 「初めまして、〇〇と申します。以前ご連絡した際は担当者が違いましたので、あなたについては存じ上げないのですが……」
- OKな挨拶 「初めまして、〇〇と申します。〇〇様のお噂は社内でも伺っており、お名前はかねがね存じ上げておりました」
このように一言添えるだけで、相手は「自分のことを知ってくれているんだ」と悪い気はしませんし、その後の商談や会話がスムーズに進みやすくなります。
FAQ
- Q:「存じ上げません」の正しい意味は何ですか?
- A:「知らない」の謙譲語です。「知っている」の謙譲語である「存じ上げる」の否定形として使われます。謙譲語であるため、自分自身が「知らない」ことをへりくだって伝える際に使用し、相手に対して使う(例:「〇〇様は存じ上げませんか?」)のは誤りです。
- Q:「存じ上げません」と「存じません」の違いは何ですか?
- A:知らない対象が「人」か「物・事」かによって使い分けます。対象が「人」の場合は「存じ上げません」(例:社長のことは存じ上げません)、対象が「物・事」の場合は「存じません」(例:詳細は存じません)を使うのが適切です。
- Q:ビジネスメールで「存じ上げません」を使う際の注意点はありますか?
- A:文脈によっては「知りません」と突き放したような冷たい印象を与える恐れがあります。そのため、「恐れ入りますが」や「勉強不足で申し訳ありませんが」といったクッション言葉を添えて、表現を和らげる配慮が必要です。
- Q:目上の人に「知っているか」を尋ねる場合の正しい敬語は?
- A:「存じ上げませんか?」と聞くのは失礼にあたります。相手の動作や状態を敬う尊敬語を使い、「ご存知ですか?」や「ご存知でいらっしゃいますか?」と尋ねるのが正しいマナーです。
まとめ
「存じ上げません」は「知らない」の謙譲語です。謙譲語とは自分の立場を下ろす事で相手を敬う話し方です。そのため、謙譲語の主語に自分以外の方を選択してしまうと失礼に当たります。そのため、疑問形にする場合は「存じ上げませんか?」ではなく「ご存知ですか?」などで相手に尋ねるようにしましょう。
また、いくら謙譲語とは言え「知りません」とだけ相手に伝えてしまうと、突き放した印象になってしまう恐れもあります。「存じ上げません」を使う際は「恐縮ですが」や「大変申し訳ありませんが」などの、クッション言葉を上手に使って、言葉の印象を和らげるようにしましょう。



